ひとりしずか

ひとりしずか

いとめぐり


殉職IFです。














朽ちることが定めではないものの、やはり無情なのは現実。必ずどこかで死は訪れる。何故ならば死はいつでも隣に寄り添い、命の終わった人々を迎えに行くために手を差し伸べるのだから。



「...しくじった、か。らしくないですね...」


呪力はもう使えない。身体は悲鳴を上げている。折れた骨と裂けた肉は元には戻らない。反転術式でもあれば良かったものの、既に使うことはできなくなってしまっている。

傍には折れた薙刀。刃が真っ二つの短刀。覆う面布は既にボロボロで役割を果たしていない。等級違いの任務がこんなにも辛いものだとは。同行していたもう1人は逃げ仰せたが、代わりに自分がこの有様。得意としていた結界術にも限界はあった。それだけの話。あぁ、自分が逃げられていたら。


まぁ、それ自体は別に良い。

既に終わった命を態々繋げているのは他でもない自分。1人終えていた生を無理やり起こさせたのは他でもない僕自身。

むしろ、誰かに覚えてもらって死ねるのであれば幸せだろう。


「...は、なにが」


自嘲する。情けない。やはり自分は馬鹿だと再認識する。こんな所まで行き着いて結果はこう。人生の終わりの呆気なさに比べて自分のやりたかったことの比と言ったら。強欲もいい所だ。望むな、望んでもその問いは返ってこないし願いは叶わない。

全てここで果てるから。


「...っ」


死に意味を持つことはない。

どうせ忘れられる命だ。忘れて幸せに生きてくれればそれでいいものでしょう。墓を建てることなく火に焼かれて土に還り、また輪廻を巡る。人はそうして生きているのだから。


人は、人を忘れるように生きているのだから。


「...っ、は、まだ、やらなきゃ...」


ならば、せめて報告書くらいには名前を載せておこう。今も昔も、周りに誰もいないけれど、呪術師として終えるなら最期まで水臭く哀れであれ。そして無情に死ねばいい。

儚さも哀しさも辛さも無くなるならば、せめて迷惑の一つは減らして還れ。それでいいから。


...それで、良いでしょう。



「っ、...いきます」



折れた切先を握りしめて、目の前の怪物に向かって走る。無くした指には目を向けず、ただ走る。

流した涙は気にしない。溢す価値のない涙であれば地に落ちてそのまま消えるだけなのだから。



足掻けぬのなら、もう醜く死んでしまえ。

人生の幸せがないならば、幸も不幸もない終わらせ方をしてしまえ。

誰もいないのであれば、1人で逝ってしまえ。




それが、1番僕に似合う。


















1.日時:—月——日


2.場所:———県———市山間部


3.関係者:糸居志零、——————


4.詳細:山間部付近の廃村にて複数の二級呪霊を確認。変容した特級呪霊2体と遭遇。残穢等により糸居三級術師の死亡が確認。


5.処理:遺体は———級術師に引き渡され—

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